美術展で解説(?)するおばさま(2019年 50歳)

20年位前から好きだった焼き物。
それがまた、どういう訳かこの頃急激に「明治期に海外に輸出されていた磁器(美術品)」にのめり込み始めた。

その熱量たるや、当時を代表する陶工「宮川香山」氏のミュージアムに何度も足を運び、作品集や伝記を読み漁っては感極まり、独自に年表を作成したほどである。



「宮川香山 眞葛ミュージアム」入り口付近に展示されていた、
撮影可の作品(2019年6月撮影)




魅力は何といっても「神業」と謳われる、精緻な技巧。
時にダイナミックに、時に繊細に表現される花々や動物は、まるで命が宿っているよう。
写真が今ほど身近ではなかった時代に、とてつもない観察眼である。
そもそも紙に描くのでも難しいのに、焼き物でここまでなんてすごすぎる!
全くもって同じ人間とは思えない。

構図も素晴らしければ、全体の姿や色づかいも実に華やかで優美だ。
それは欧米人の好みを反映させたことにあるようだが、日本人が表現するところの和洋折衷は、独特な異国情緒の美しさ。なるほど、海外で多くの人々を魅了し、ジャポニズムブームを加速させたわけである。

更に迫り来るのは、陶工の魂。
命が完全燃焼した、瞬間瞬間のエネルギーの投影である。
その負けん気のようなエネルギーは、海外という広いフィールドで感性や技術を切磋琢磨せざるを得なかったというのもあるだろう。
たとえシンプルな意匠だとしても、オーラが全然違うのだった。

このように私の心を捉えて離さない「明治期輸出美術品」。
まさにそのコレクション展が、横浜の百貨店ギャラリーで開催されることを偶然知り、人が比較的少ないであろう開店直後を目がけて訪れた。

果たして、コレクションは本当に見事であった。
その繊細な感性と手わざ、そして作品から放たれる鋭い気迫に、見れば見るほどこちらの血も滾《たぎ》る。
日本をしみじみ誇らしく思った。

私は幸せであった。
日本人にとって幻で終わってしまったかもしれないこれらの輸出品と、今こうして対面出来ていることが。

それもこれも、コレクターの方々が長い年月をかけ、オークションなどで一つ一つ里帰りさせて下さったおかげである。
自国の誇りと素晴らしさを守り伝える……なんてありがたいことだろう。
会場を見渡しながら、ひとり感慨にふけった。

そんな中で、特に魅了された作品があった。
それは、とある絵付け工場で造られた「5枚の銘々皿」だ。

金の縁取りが施された、白地の小ぶりなお皿。
描かれているのは、空気感をも切り取ったような花木と鳥の一瞬の小世界。
白地を十分に活かした余白、そして水墨画のような濃淡だけで描かれた各種の花木は瑞々しく、鳥の様子はふわっふわでとっても愛らしい。

そして何より、姿がなんとも奥ゆかしくてお上品!
皇室御用達を思わせる、楚々とした品格なのである。
衝撃を受けた私は、鳥好きなのも相まって、しばしうっとりと鑑賞タイムに浸った。

そこへ、70代位のご夫婦らしき方々が隣に立たれた。
すぐ隣は旦那さま(仮)、その隣が奥さま(仮)である。

程なく、奥さまがこちら覗き込むようにして何かおっしゃった。
私は当然旦那さまに向けた言葉だと思った。……が、それにしてもボリュームがたいそう猛々しかったので、一応奥さまを見ると、「待ってました!」とばかりに視線をからめ捕られた。
そして、視界手前の旦那さまは、何故か正面を向いたまま蝋人形のように微動だにしていない。
……と言うことは……どうやらあの言葉は、旦那さまではなく私へ向けられたものだったようだ。

「何ですか?」
そう問うと、奥さまは旦那さま越しに、あらためて荒々しい口調でおっしゃった。
「金の縁取りだから剥げてるでしょ!剥げちゃうのよね~どうしても!」
私は『そんなに剥げてる?まあ、古いものだしね……』と思いながら、「あ 、そうですか~」と明らかに流した。
しかし、それでも奥さまは満足そう。
つまり、返しの内容は何でも良くて、反応があったこと自体に意義があったように思えた。現にその直後、他の作品を見ることも無く、誇らしげにドスドスと去って行かれたのだから……。

私は心の中で唖然としながら、奥さまを見送った。
そしてその後を、魂を抜かれた人形のように、淡々と追従する旦那さまも……。

再び銘々皿に目を落とす。
奥さまがどうしても伝えたかった「金の剥げ具合」。やはり私にはさほど気にならない。
「人それぞれに鑑賞ポイントが違うんだなー。……もしくは、私がよっぽど金の剥げ具合を気にしているように見えたとか?」

いずれにせよ、私は気づいた。
◆同じ物事でも、自分が心地よいと思う側面に強く焦点を当てよう。
◆強い負の感情を周囲の人々に投げつけて、相手のパワー(エネルギー)を吸い取るのは止めよう。
これらは、旦那さまの生気を失ったようなお姿を思い出すたび、しみじみ腹落ちしていった。

私は、教訓を与えて下さったご夫婦(仮)の存在に感謝した。
そして、コレクション展での一連を【ちょっと複雑な思い出】として、記憶ストレージにそっとファイリングしたのだった。





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