買い物が出来ないジレンマをもたらす店員さん(2011年 42歳)

横浜駅近くのとある企業に、アルバイトで通っていたことがある。
週1~2回ほどではあるが、期間だけは17年となにげに長く、「古株」と呼ばれるにふさわしい存在であった。(社員さんが何人辞めていかれたことか…)

終業時間は決まっておらず、大体早めの夕方上がり。そのまま電車で家に帰れば、なにかと疲れやすい私でも、余裕を持って家事が出来る時間だ。
……がしかし、当時の私はおしゃれ服の亡者。おまけに、人生最大の暗黒期でストレスフルであった。
そこへ来て、大都会横浜には、キラキラしたおしゃれなものが一杯……。
当然のように、さすらいのショップハンターとなり果てたのである。

とは言え、家事もせねばならぬので、時間に限りがある。
なので、タイムリミットに若干殺気立ちつつ、集中して欲望を一気に大解放してゆくのがいつものパターン。
そしてこの日も、スタスタとお店をハシゴし、お気に入りのフレンチテイストなお洋服屋さんへ向かったのだった。

店内には数名の店員さんがおられた。
声をかけられたくない私は(集中力がそがれるため)、出来るだけ彼女らの視界に入らないよう、残り時間を腕時計でチェックしながら物色し始めた。

だが、そんな努力も空しく、若き店員さんが「こんにちは~♪」とフレンドリーオーラ全開で襲来。
私は、『ああ~来ちゃった…』と瞬間身構え、「呼びかけに対応するか否か」の二択にかかった。
……しかし、何となく会話を繋げてみたところ、これまたお話が非常にお上手で面白い。
内容自体も、ちょっと興味深い世間話などで、あれよあれよと話は弾み、大爆笑へ……。

そんなこんなで、楽しい時間はあっという間に過ぎ、やがて帰宅のタイムリミットが到来。
何も買えずに店を出た。


1カ月後。「今度こそは何か買いたい!」と、やはりバイト帰りに同店へ。
早速、店員さんにつかまる。少しお話する……。
そこで店員さんは、ハッとしておっしゃった。
「あれっ!前にも来ていただきましたよね!あの時は楽しかったです~!」

『え……』
失礼ながら、私はあの時の店員さんのお顔や容姿を全く覚えていなかった。(←基本的に顔を覚えられない。自分の顔すらよく分かっていない)
でも、確かにこの笑顔溢れるフレンドリーな雰囲気は、あの時のあの方だったかもしれない。……いや、きっとそうだ。さすが店員さん!横浜という接客数の多い地で、何と素晴らしい記憶力、そして観察力!

「すごい!よく覚えてましたね!」
心からの感嘆が、思わず口から飛び出る。
……盛り上がる二人。広がる話題。そして、爆笑に次ぐ爆笑……。
おかげでこの日もタイムアップ。楽しいひと時と引き換えに、またしても買い物は出来なかったのである……。

「楽しさをとるか、買い物をとるか…」
帰りの電車の中でしばしぼんやり考える。……結果、
「いやいや、せっかくの横浜なんだから、買い物でしょ!」
と、どこまでも物欲を優先させた私は、「店員さんが私の存在を忘れる頃まで、しばらくあのお店を訪れない」という策を講じたのだった……。




余談:その後のお店訪問

店員さんとの爆笑タイムから、約2か月ほど後。
「もう私をお忘れになったであろう……」とドキドキしながらお店を再訪すると、店員さんご自身がいらっしゃらなかった。
たまたまだったのか、辞めてしまわれたのかは分からないが、ひとまず落ち着いて服を見ることが出来たのだった(ホッ)。







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