年の功(?)で話をはぐらかす長老弁護士(2007年 38歳)

フリーのイラストレーターとして、細々と活動していた頃。
ちょっとした著作権問題に巻き込まれそうになったことがあった。

幸いにも大事には至らなかったが、そのやりとりによる精神ダメージはかなりものもだったため、後々の予防策として著作に関しての法的対策を講じておく事にした。
……そう、フリーランスは基本自由だが、「何かの後ろ盾」的なものがないので、こういう時が少々辛い。

と言うことで、早速対策方法をインターネットで検索……したのだが、イマイチよく分からない。
施したい対策が、どれにも微妙に当てはまらないのだ。(当時、ネット上の情報量も少なかった気がする)
そもそも、どの「法のプロ」に相談していいのやら……。
弁護士さん?弁理士さん?司法書士さん?一体どの専門家に……?

そんな根本的疑問をも抱えることになった私は、ひとまず県庁所在地の公共施設にて定期的に開催されている、「弁護士による無料法律相談会」を訪れたのだった。

初めての施設内。軽く驚いたのが、相談スペース。
人通りが少ないとはいえ、通路のような一角に設けられている。
ブースは2m間隔で3カ所。それぞれに小さな簡易机とパイプ椅子が配されており、これまた簡易なパーテーションで左右にだけ区切られていた。
おまけに各ブースの後方2m程のところには、待合の椅子が数脚ずつと、相談をするにはかなり開放的な空間。
案件によっては、若干プライバシーが気になりそうだが……。





とかなんとか思いながら、それとなくスペースを見渡していると、左端の机には【離席中】の立て札。右端は空《から》。真ん中のブースにのみ、弁護士先生が鎮座されていた。
相談者も私だけ。なので、ふと目が合ったおじいさま先生に促されるまま、必然的に真ん中へ着席したのだった。

あらためてご対面すると、先生は穏やかで落ち着いた雰囲気のある方であった。
その上、経験豊かそうな佇まいからは、思わず「長老!」と呼びたくなるような威厳がそこはかとなく漂っている。

私はちょっと安心して、早速これまでの経緯とこれからの対策を伺った。
……長老は少し思案された。
そして「そのような案件は、弁護士ではなく司法書士や弁理士などの管轄である」と言ったことをほのめかされた。

まあ、それは想定内のご回答。問題はそこからなので、続けて「では、どの『士』に相談すれば良いのか?」という核心に迫った。
すると長老は一拍置き、説き伏せるように断言されたのだ。

「……あなたのような方が、そんな世知辛い法の世界に入ってはいけない」

『……そっか、なるほd……』しみじみしかけて、ハッとする。いや違う違う、そうじゃない! 欲しいのは、そんなカウンセリング的フワッとアドバイスじゃなくて、もっと弁護士先生らしい、現実的な解決案が欲しいのですよ!糸口だけでもいいからー!

はぐらかされたように感じた私は、語気を強め「そうは言っても、仕事をしていくためには仕方ないことなので、どこの管轄なのかが知りたい」との申し立てをした。
しかし長老。この案件が弁護士の管轄外であることに気が緩んだのか何なのか、再び現実的ではないアドバイスをひと言ふた言のらりくらりとされた後、今度は何故か実弟さんのお話を始められたのだった。

「実は弟も弁護士で、▲▲(超大手芸能事務所)の弁護団に所属してるんですよ」
「はぁ……あの有名な。そうですか……」
「若い子がいっぱいいるからね~。色々あるみたいで」
「はぁ……」
その事務所とは、キラ星輝くアイドルがわんさか所属されているところである。
でもって、含みをたっぷりと持たせた長老の口調は、スキャンダル情報をたぷりと吸収した脳内スポンジをギュッと絞り出して欲しそうにも窺えた。

けれど、私には全く興味のない芸能界事情。
そんなことより、さっきの回答が聞きたい。そっちはどうしたんでしょう。もう終了!?
と言うか、弟さんが弁護団であることを私に言っちゃって大丈夫?
……あれこれと無意味に増えた疑問に、私の心は大きくかき乱された。

で、結局。話の流れは二度と戻ることはなく、「長老の身の上話」に着岸。
それを以て相談会は終了した。

『電車賃をかけてまで来たこの時間は、一体何だったのか……』
車窓を眺めながら思わず遠い目になった私は、ただただ『なるほど、▲▲だけあって、弁護団が結成されているのか……』と、必要のない情報を反芻するほかなかったのであった。




後日談:やはり核心を得ていた(?)長老のアドバイス

その後、長老の「法の世界に踏み込むべからず」アドバイスを振り払うかの如く、一層力を入れ著作保護に関してひたすら調べまくった。
……だが、やはり有効な対策が見つからない。
「……ぐぬぬ。なんとかせねば……」
焦燥感にも似た懸念を抱えつつ、仕事を続け、時は流れる。

そしたらなんと、それからしばらくして人々の「紙の本離れ」の大波到来。
相次ぐ廃刊・休刊、担当さんのご退職などにより、私の活動もゆるやかに尻すぼみとなり、最終的に著作権を心配する必要もなくなったのだった。

「あの時のアドバイス、ある意味核心をついていたのかも……」
まあまあな時を経て、ふと思う。
何かを見通したような叡智と、説き伏せるような圧は、百戦錬磨のご経験からのものだったのだろう。……やはり長老だったのだ。

「戦って勝ち取る」というイメージの弁護士さんだが、「余計な戦いの芽を摘む」ことも使命なのかもしれない。



余談:無料法律相談会の難しさ

無料法律相談会の難しさを感じたのは、私だけではない。
ひったくりにあった友もその一人だ。

と言うのも、ちょうど本エピソードの下書きを終え熟成させていた頃(2019年)、友から怒りのメールが届いたのだ。
「無料法律相談会に行ったが、無料の範疇を越えているので答えられないとあっさり断られた上に、解決の糸口さえ見つけられず、はらわたが煮えくり返っている(←意訳)」

ちなみに相談内容は、「警察に被害届を出したのだが、何故か加害者より被害者である自分の方が保護されなかったこと(加害者が使ってしまったものは、返却されない。盗まれ損)に対する、申し立て手段」である。
そう、これでもダメだったのだ。
……うーん、一体どの程度が無料相談の範疇なのか。判断が難しい。

<ご参考までに>
アクセサリー作家として活動をしていた頃(2013~2020)、「意匠登録の件」で無料相談を受けて下さった、個人事務所の弁理士さんは、とても親切丁寧であった。
営業的な押しつけがましさもなく、時間もたっぷりとって下さり、無料とは思えぬサービスをして下さいました。



今回「フリーイラスト素材集 ジャパクリップ」さんの
画像を使わせていただきました。ありがとうございます。





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